記憶に残る地名
田良子地区は、大正村のある中心部とは違い、田畑と森林に囲まれた長閑な農村地域で、山の上の神社や薬師堂、石祀などが、今もひっそりと佇んでいる。
そんな下田良子の地蔵堂では、毎年秋に弘法さんのお彼岸法要が行われている。朱色の屋根のお堂は趣があり、歴史の深さを感じさせる。中に入ると、本尊である地蔵菩薩が祀られている。慈悲深いお顔、美しい色彩の着物に思わず目を奪われる。勧請年代や由来はわかっていないが、享保5年に村人により地蔵尊を装飾、寛政12年に再建されたといわれている。
そして天井を見上げると、絵が描かれているのに気づく。けやきの木板一枚一枚に、人物や鳥類、植物、風景が丹念に描かれ、64枚の木板が格子状に組まれている。いつの時代に描かれたのか不明で、謎を秘めた絵天井は市の文化財に指定されている。
かつては、一人ずつ松明を灯してお堂から横通地区境まで持っていく「虫送り」という行事や、お堂に集まり、心経を唱えながら大きな数珠を手送りに順に廻して拝む「雨乞い」をしていたそうだ。時代と共に変化していき、現在は地域の女性が中心となり、お堂で地蔵菩薩に地域や家庭の平和を祈りながら、持ち寄ったお弁当などを囲む行事になった。形は変わっても、地域の人達の大切な交流のひと時に変わりはない。