STORY 恵南地方にまつわる50の物語

山岡町 下手向祇園祭

地域愛を提灯舟にのせて・・・

青年団や子供たちで盛り上げる祭り

夏のはじめ山岡町の、とある地区で小さな小さな祇園祭が開催される。
一度消えた伝統の灯りを再び灯し、提灯舟は地域の平和・人々の幸せを願いながら練り歩く。
その郷土を愛する強い思いがあったからこそ復活を遂げた提灯舟は、地域を照らす希望の灯りになるだろう。

もう一度提灯舟を

山岡町下手向(しもとうげ)地区では、毎年7月の第1土曜日に、祇園祭が開催される。愛知県の津島神社の流れをくむお祭で、地元の青年団や婦人部、子供たちが中心に盛り上げている。
恵南地域では、青年団が残っているのは下手向のみになり、大変貴重な地区でもある。
車を舟に仕立て提灯を飾る。舟は竹で作られており、祭が終われば車から外すことができるよう工夫されている。昔は荷車に舟を載せていたそうだ。
提灯で飾られた美しい舟は、祭りの当日、白山比咩神社から出発して、下手向地内を練り歩き、花の木会館が終点となる。地区内を練り歩く時は、浴衣を着た子供や若い衆が手踊り(盆踊り)をしながら、地区の安全や平和を祈る。
下手向の若い衆は、青年団が今も存続されているだけあって、とてもエネルギッシュだ。子供たちも元気で、そんな陽気さが地区全体を包んでいる。

そんなパワーあふれる下手向の祇園祭だが、12年前に様々な事情で、一度はすたれてしまったそうだ。車を舟に仕立てた提灯舟も無くなり、地区が少し元気のない時代があった。しかし、青年団の若い衆が立ち上がり、もう一度提灯舟を復活させようと声を挙げた。そして見事復活を果たし、6年の歳月が流れ現在に至っている。
何事も辞める時は簡単だが、始める時は相当のエネルギーが必要だ。自分が生まれ育った故郷を愛する気持ちが、彼らを駆り立てたのかもしれない。

津島神社の天王祭

愛知県津島神社の流れをくんでいる、下手向の祇園祭だが、その元になる祭りとはどんなものなのだろうか。
愛知県津島市に鎮座する津島神社。愛知県を代表する神社のひとつで、全国に3000あるという津島神社(天王社)の総本社だ。江戸時代には、「津島参らにゃ片参り」ともいわれ、お伊勢参り(伊勢神宮)とセットで参拝するのが習わしだったといわれている。
そんな津島神社では、ユネスコ無形文化遺産に登録されている600年もの歴史がある有名なお祭がある。それは、「尾張津島天王祭(おわりつしまてんのうまつり)」だ。地元では、天王祭や津島祭りと呼ばれ親しまれている。

日本三大川祭りのひとつで、大阪天満宮の天神祭、厳島神社の管絃祭と並び、夏祭りの中で最も華麗で美しいといわれている。
このお祭りは、2日続けて開催され、朝のお祭り(朝祭)と、夜のお祭り(宵祭り)があるそうだ。始まりは、宵祭からで、メインは提灯舟だ。花火の打ち上げと共に、舟の提灯に火を灯す如意点灯が始まる。そして、いよいよ祭りの見せ場。たくさんの数の提灯を付けた舟がゆったりと天王川を漕いでいく。
水面に映る提灯の光が幻想的で、その光景は一瞬にして別世界に私たちを誘う。

思いが地域を照らす

下手向の祇園祭は、尾張津島天王川祭の提灯舟を、車を利用して舟に仕立て再現しているのかもしれない。
規模は比べものにならないが、一度消えかけた祭りの灯りを再び灯した情熱は、子供たちの心に刻まれていくだろう。

時代が急激に移り変わる中、里山から都市へと向かう人が多くなった。少子化の影響もあり、伝統を引き継ぐことが困難になる地域も増えている。これも時代の流れとして、仕方のないことだろう。
それも受け入れながら、それでも最後まで楽しみながら、希望の灯りをともし続けようとしている人達がここにいる。
その地域の人達の思いこそ、大切な宝物だ。

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