STORY 恵南地方にまつわる50の物語

山岡町 爪切地蔵尊奉納花火

夜空に浮かぶ幻想的なお地蔵様

350年の歴史を誇る伝統と技法を伝える伝統花火

デジタル化が進む現代に、里山でひっそりと受け継がれる伝統花火。
そこには時空を超えた祈りや願いが込められているのかも知れない。

伝統技法「綱火」

この奉納花火は、350年以上続く伝統ある祭りの中で開催され「恵那市民俗無形文化財」に指定されている。
毎年大祭である8月16日に爪切地蔵に地域の安全祈願をこめて久保原林昌寺爪切地蔵尊の前で開かれる花火大会だ。

伝統技法「綱火」を使った花火と、華やかな現代の打ち上げ花火とを織り交ぜながら行い地元の人々によるオリジナル花火やスターマインなどを含む約800発の花火で存分に楽しませてくれる。
中でも名物の爪切地蔵尊が夜空に浮かび上がる仕掛け花火は必見だ。
竹筒に火薬を詰めたロケット状の花火をワイヤーにはわせ、行燈や仕掛け花火などに点火する綱火と云われる技法を用いている。ロケット花火を発射し無事に綱を渡り点火してお地蔵様が浮かび上がると、大きな歓声と共に深い安堵感が場内を満たし華やかな打ち上げ花火とは違う空気感が漂うのだ。
この地区は、昔から花火師だけでなく地元の煙火団による手作業での打ち上げが今もなお受け継がれている。地域の人々の祈りや願いをこの花火に込めているからこその空気感なのだろうか…
爪切地蔵ふれあい会館に手筒花火や打ち上げ花火など展示されており観る事が出来る。

林昌寺の爪切地蔵の由来

林昌寺(りんしょうじ)は薬師如来を本尊とする曹洞宗の寺院で、山号は医王山。恵那三十三観音霊場の第22番札所であり、中部四十九薬師霊場27番である。寺の創建時に建てられた鐘楼門と鎌倉時代の薬師如来坐像が恵那市の文化財に指定されている。
林昌寺にある爪切地蔵は、石造線刻の地蔵菩薩像で周囲には廃仏毀釈時代の石仏群がある。お地蔵様の形をしているのではなく石に刻まれたお地蔵様で、この石が少し右斜め前かがみに傾いているのだ
なぜ傾いているのだろうか?誰もが不思議に思うだろう・・・・
爪切地蔵にはこんな由来が伝えられている。
鎌倉時代の終わりに、京都より草拍という僧が行墓作の薬師如来像(現在の林昌寺本尊)を奉持しこの地を訪れた。村人は草拍に帰依し草庵を建てて歓迎をした。
ある晩、この草庵に一人の老僧が訪れ一夜を過ごしたが、翌朝この老僧の姿はなく地蔵が彫られた石が傾いて立っていたのだった。苔むした長方形の粗末な石に浅い線で地蔵尊の姿が彫刻されているのを見て草拍は、「昨夜の老僧は弘法大師で一夜にて爪で刻まれた」と有難く思った。
弘法大師がこのお地蔵様を立てようとした時、夜が明け一番鶏が鳴き馬のひずめの音、人の近づく気配を感じ急いでその場を立ち去った為傾いたままになったそうだ。
後世、このお地蔵様を真っ直ぐに起こすと病災疾難が起こった為また元の様に戻し現在も傾いたまま祀られている。

弘法大師が一夜にして爪で彫り上げたと云われるお地蔵様…
祠の中、ろうそくや花が添えられて現在も大切に祀られている。

雨が止む不思議な現象

爪切り地蔵尊奉納花火は寄付によって運営されており、寄付の方にはご祈祷お札(又はお守り)を差し上げ、全ての寄付者の方のお名前を掲示し花火打ち上げ時におよみ上げしている。
中でも趣向を凝らしたオリジナル花火は見物客も巻き込んで非常に面白い。
30発限定のメッセージ花火と呼ばれるもので、「○○君、お誕生日おめでとう!」「○○ちゃん、結婚しょう!」などなど・・・・言葉を添えてあなただけの花火が夜空の大輪となる。

毎年大祭である8月16日に必ず開催される奉納花火だが、悪天候に見舞われる年もある。だが、不思議な事に先程まで雨が降っていたのにも関わらず花火打ち上げの直前になると雨が止むのだ。
地元の人も首を傾げる現象だが、これもお地蔵様の力なのか…それとも地元の人々の祈りや願いの思いが届いたのだろうか。

一節によると天候によって奉納花火を中止すると、災害が起こる事が多いのでどんな雨予報でもやり切るのが伝統なのだそうだ。
里山に囲まれた田圃を渡る涼しい風に吹かれながら花火の音が山々にこだまする。田舎風ではあるが伝統を引き継ぐ地元の人々の細やかな愛情が感じられる花火に心癒されるに違いない。

INFORMATION

名称
林昌寺
場所
岐阜県恵那市 山岡町久保原388
お問合せ先
0573-56-2089

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