岩村町獅子舞の独特の演目「葛の葉姫の子別れ」が母情を誘う
岐阜県重要無形民俗文化財に指定されている、大変貴重な郷土芸能だ。
軒先にあんどんの灯りがともる頃、古い町並みに舞台が出現する。演じる者と観る者がひとつになる路上での獅子舞は、今まで体験したことのない臨場感が迫ってくる。
旧岩村城下町の街路五ヶ所(領家新町境・新町西町境・西町本町五丁目境・本町五丁目四丁目境・本町三丁目二丁目境)の路上で上演され、場所ごとに演目が異なる。
お囃子の音に誘われて行くと、子供たちが囃子屋台を曳きながら、軽快にお囃子を奏でつつ移動している。そして、観衆が回りを取り囲む中で、「悪魔払い」「おかめひょっとこ」「いざり勝五郎」「お染久松」「葛の葉」「八百屋おしち」などの演目が上演される。
特に、庚申堂前で演じられる「葛の葉姫の子別れ」は、幾重にも観衆の人垣ができ、岩村町獅子舞の魅力を存分に感じることが出来る演目だ。
「葛の葉姫の子別れ」という演目は、平安時代に活躍した、陰陽師・安倍晴明の生い立ちを人形浄瑠璃・歌舞伎の脚本として取り上げたもので、晴明の父・安部保名が、和泉国篠田の森に棲む白狐と契り、吾子(安倍晴明)を成したという伝説から、さわりの部分だけを演じている。
白狐が傷ついていた時に、安部保名に助けられた。その後白狐は、保名の許婚者である「葛の葉」に化けて子を設け、親子3人で暮らしていた。しかし、葛の葉自身がやって来ることになり、白狐は元の狐の姿に戻り、とうとう別れの時が・・・その際、自分の体に残された人間の部分を使って、別れの和歌をふすまに書き連ねる。「左手」「口」「足」を使い、器用に書く姿に一同拍手喝采で、男性が女装して優雅に舞う姿に更に感嘆の声が上がった。獅子は、終始無言で、浄瑠璃風の語りに合わせ女形の所作を演じている。男性が演じているとは思えない、母情がその場を包み、観衆の涙を誘う。